現代病のお話


ヒトの場合、産業革命以降の時代は狩猟採集の時代と比べて瞬間的といって良いほどの短い時間ですので、

狩猟採集時代の遺伝子構成を未だに引きずっている我々ホモサピエンスは、急激に変化する現代の環境に遺伝子的に適合できていません。

その結果、これまで少数のヒトにしか見られなかった種類の疾患が近年急激に増加するようになりました。

いわゆる現代病です。

 

現代病という言葉は厳密な医学用語ではありませんが、近代化によって急激に増加し始めた多くの疾患を括るのに便利な概念ですので、

用いていきたいと思います。

ここでは現代病を以下の4つに分類してみます。

 

1. 生活習慣病

2. ストレスによって直接的~間接的に引き起こされる病

3. 花粉症に代表されるアレルギー疾患

4. 自己免疫疾患 

生活習慣病


狩猟採集時代においては、

食物から得られるエネルギーの多くが次の食物を得るためのエネルギーとして費やされたと思われます。

自然の気まぐれに左右されながらしばしば飢えにも直面したであろう我々の先祖ですが、

肥満や糖尿病などとは無縁な人々であったのは確かでしょう。

 

農業の発明から今日に至るまで、ヒトは自分たちが口に入れる食物の品種改良を行い、

より美味しく、より収穫量が高く、より栽培しやすい作物を作るのに営々と力を注いできました。

畜産においても同様です。

さらに、産業革命以降の科学技術の進歩によって、少なくとも先進諸国では、

安価で美味しい食物が大量に消費できるようになった結果、

生存に必要なエネルギー以上のエネルギーが容易に得られるようになりました。

その結果、狩猟採集時代では考えられなかったような病気が生じてくるようになりました。

それが生活習慣病と呼ばれる一連の病気です。

 

生活習慣病の中でも代表的なのが、先進諸国の現代人に多く見られるメタボリックシンドロームです。

メタボリックシンドロームは、肥満傾向が強いと同時に、

高血圧、高血糖、高中性脂肪などの傾向を有するヒトに下される診断です。

詳しい数値などは国、民族、さらには関連する学会、加えて年代によっても異なりますので、

ここでは具体的な数値を出さずに定義します。

要するに、メタボリックシンドロームとは、肥満と運動不足に主たる原因が求められる一連の疾病の事です。

ストレス病


現代の先進諸国の経済の中心を担っているビジネスマンの多くは、

過酷な競争社会の中で、会社や家族、あるいは自らの過大な期待に答えるべく、

日夜猛烈に働かなくてはなりません。

このような厳しいビジネス環境からは大きなストレスが生じますが、

強いストレスは直接的に健康に悪影響を与えます。

不眠や抑鬱などの神経の病、交感神経の長期にわたる緊張から生じる胃潰瘍や過敏性腸症候群など、

これら一連の病気はストレス病と呼んでも良いかと思います。

 

また、ストレスが間接的に影響して生じる病もあります。

お酒やタバコなどはストレスを発散するためにしばしば大量に消費されますが、

これらの嗜好品によって生じる病気も、間接的な意味でのストレス病に含めて良いかも知れません。

さらに、最近では体型を気にする余り、特に若い女性の間で、

過度なダイエットによる栄養障害が見られるようになってきました。

さらにその反動としての過食も問題視されています。

これらもまた「スマートで無くてはならない!」との強迫概念に駆られた行動と考えられますので、

広い意味でのストレス病と言って良いかも知れません。

アレルギー疾患


アトピーや喘息、花粉症、食物アレルギー、炎症性腸疾患などの

アレルギー疾患は、先進国の都会に住む住人の間では

比較的ありふれた病気となりつつありますが、

現代においても狩猟採集民や発展途上国には殆ど見られず、

また、先進諸国であっても、

農村では比較的少ない病気であるといわれています。

 

喘息、花粉症、炎症性腸疾患などのアレルギー疾患には

免疫が大きく関わっており、

何らかの刺激に対して過敏~過剰に反応する結果生じます。

 

アレルギーを引き起こす物質の事をアレルゲンと呼びますが、

杉花粉やコナダニ、車や工場の煤煙などは、

花粉症や喘息、アトピーのアレルゲンとなります。

一方、炎症性腸疾患では腸内細菌がアレルゲンとなります。

炎症性腸疾患は、普段は腸の中で大人しく暮らしている普通の細菌類に対して過敏に反応する結果生じる病気で、

近年急激に増えつつある病です。これのせいで第一次安倍内閣が倒れたのも、記憶に新しいところです。

 

アレルギー症状は体に侵入してはいけないものに対して緊急に発動される排除システムですので、

本来的には体の防御反応であり、生命維持において必要なものです。

けれども喘息や花粉症などでは体の中に多少侵入してきても大騒ぎする必要のないものに対して過剰に反応してしまうので、

免疫反応に何かおかしな事が生じていると考えられます。

基本的には、これらのアレルギー疾患は外来のアレルゲンに対して過剰に反応する結果生じる病ですので、

可能であるかどうかは別として、理論的には、アレルゲンを徹底的に排除すれば発症しません。

自己免疫疾患


自分の体に元々あるものに対して免疫が過剰に反応する結果生じる病が、自己免疫疾患です。

自己免疫疾患には、型糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症などがあります。

自己免疫疾患のアレルゲンは文字通り自分自身の中にある「何か」ですので、それを取り除く事は不可能です。

これらの自己免疫疾患の原因は殆ど分かっていません。

遺伝的素因が関与する事は確かですが、最近では環境要因の影響にも注目が集まりつつあります。

アトピーなどと同様に、現代の狩猟採集民や発展途上国には殆ど見られる事の無い病が多いので、

これらを現代病の一種ととらえる見方も出てきました。

 

以前は、アレルギー疾患や自己免疫疾患の根本原因としては皆ひとくくりに「体質」という言葉で片付けられてきたものですが、

近年になって説得力の強い説が現れて来ました。

それが衛生仮説や旧友仮説と呼ばれる説です。