食と健康


未だ狩猟採集民時代の遺伝子を引き継いでいる現代人ですが、

取り巻く環境の激変に遺伝子的に対処するためには途方もない時間が必要です。

かといって、原始の昔に戻る事もできません。

ジョギングしたり、野外活動に精を出したり、あるいは過度に衛生的な環境状況に意図的な変化を与えたりなど、

様々な工夫が必要だと思われます。

そして、これらに加えてさらに重要な事が、食について深く考え、優れた洞察を得る事です。

 

食の機能性とは


ヒトが食物を摂取する事の第一義的な目的は、生存し、成長し、子孫を残すために必要な栄養素を摂る事にあります。

これを食の一次機能と呼び、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素がこれに含まれます。

これらの栄養素のいずれも、摂取量が体の要求量に満たない場合、欠乏による何らかの重篤な障害が生じます。

 

お腹を満たす事ができれば、次は美味しいものを求めるようになります。

食に求める味覚~嗜好の欲求を、食の二次機能と呼びます。

ヒトは生まれつき甘いものは受け入れがちな一方で、苦いもの、えぐみの強いものなどは排除しがちです。

甘いものの多くは炭水化物~糖分として生命活動に必須の栄養素ですし、

強いえぐみのあるものには植物のアルカロイドなどの毒素成分が含まれる場合がありますので、

そういう面からいうと、一次機能と二次機能はある意味不可分な側面も有しています。

 

近年になって、食の第三の機能性が強く意識されるようになってきました。

食の三次機能とは、食によってもたらされる生体調節機能の事です。

具体的には、抗酸化能や抗変異原性を有する成分や、あるいは免疫系やホルモン系、神経系などに影響を与えて

ヒトの健康に「良い」影響を及ぼすような食成分を指します。

 

腸内細菌叢に影響を与える事によって健康に良い影響を及ぼすような成分、いわゆるプロバイオティクスやプレバイオティクスですが、

これらも含まれます。

通常は一次機能成分として分類される物質の中でも、アミノ酸や脂肪酸のように、副次的に第三次の機能性を発揮するものもあります。

ちなみに、バイオジェニックスという言葉は、このような三次機能を示す食品成分を網羅的に表す概念とも言えます。

 

 

ヨーグルトや漬け物の中には乳酸菌が含まれておりますが、乳酸菌の菌体は腸管免疫系に刺激を与え、体全体の免疫系の活性化に働きます。

また、大豆にはイソフラボンが含まれていますが、イソフラボンが性ホルモンシステムへ介入する事によって、

骨粗鬆症や乳ガン、あるいは前立腺ガンなどの予防に働く可能性が指摘されています。

乳酸菌にせよイソフラボンにせよ栄養学的な一次機能はありませんし、それ自身は美味しいものでもないので、二次機能もありません。

しかしながら、両者共に多岐にわたる三次機能を有する物質群であり、典型的なバイオジェニックスです。

 

三次機能を有する食物は植物由来のものばかりではありません。

例えば鮭の切り身は

いわゆるサーモンピンクと呼ばれる鮮やかな色彩をしていますが、

これはアスタキサンチンと呼ばれる物質の色です。

 

アスタキサンチンは

もともとはオキアミなどのプランクトンの体に存在する物質ですが、

これらのプランクトンを鮭が食べる事により、

自身の体に蓄積されます。

アスタキサンチンは非常に強い抗酸化能を有し、

脂質の過酸化反応などから生体を防御する働きをしていると

考えられています。

産業革命以降の文明の発達によって、少なくとも先進諸国の人々は食の一次機能の確保から開放され、

最近では二次機能を追求するあまりに過食~肥満に陥って健康を損なうヒトが増えてきました。

 

食の二次機能の中でも問題なのが、甘味、脂肪、食塩です。

これらは狩猟採集のご先祖様の時代には非常に得難いものでした。

その結果、甘味、脂肪、食塩に対するヒトの嗜好性には遺伝子的といっても良いほどに根強いものがあり、特にアメリカで顕著ですが、

これらに対するヒトの嗜好性を商業的に利用~追求する傾向を法的に規制しようとする動きまであるほどです。

 

白米が良い例ですが、美味しさを追求して栄養に富んだ胚芽部分を排除した結果、脚気を引き起こす事となってしまいました。

イソフラボンの機能性に注目が集まるようになる前は、大豆のイソフラボンは「えぐみ」の元として排除の対象でした。

野菜や果物も甘みや柔らかさを追求して長年品種改良に努めてきた結果、

三次機能を有する物質の含有量が少ないものばかり出回るようになりました。

 

このような状況を考えると、現代人は明らかに食が本来有する三次機能の摂取が足らず、

そのために現代病に代表される何らかの「変調」を生み出す素地を作りだしているように思えます。

しかしながら、穀物や野菜の原種を見れば分かりますが、三次機能が豊富とはいえ、

今更ながらこれらの野生種を食べる事は現代人にとって不可能であり、非現実的な選択肢です。

如何に栄養が有るとはいえ、玄米を用いてお寿司やうな重を作っても誰も食べたがらないでしょう

 

ではどうするか?

 

甘味、脂肪、食塩の取りすぎに気をつけ、日常の中に適度な運動を取り入れるのはもちろんの事ですが、同時に、

三次機能に優れた各種の食材を、植物性~動物性にこだわらず、種類豊かに摂る事が大事です。

また、ヒトによっては好き嫌いもあるでしょうし、さらに食材の手に入りやすさや調理の問題なども考慮に入れると、

各種サプリメントや健康食品を利用するのも有効な方法です。

 

一方で、単一の食材やサプリメントを長期的かつ過剰に摂取する事の危険性も指摘されます。

従いまして、単一の成分を抽出し、これを濃縮したものよりも、

大豆麹乳酸菌発酵液のように、全ての成分がそのままに含まれた製品を摂取するのは賢い方法の一つです。

「全ての成分をそのままに摂る」という考え方は、ホリスティック健康法として近年注目を集める考え方です。

 

一部マスコミや医療関係者などがサプリメントや健康食品に対して全面的に否定的な見解を述べるのをしばしば目や耳にしますが、

このような意見は食と健康に対して深く考えたことが無く、科学」の意味をはき違えている事から発生するものだと思います。