その他の研究結果


ここでは特許の項で述べられた以外の研究結果についてお話し致します。

乳酸菌菌体の塩懸濁液上清中に観察される

ヘテロサイクリックアミンに対する抗変異原性と菌体の吸着性との関係

 

岡田拓也、中山雅晴


2018年7月13日に

東京農業大学世田谷キャンパスで開催された

乳酸菌学会2018年度大会において、

喜源バイオジェニックス研究所の岡田拓也研究員が

研究発表を行いました。

以下、抄録の全文を掲載いたします。

 

 

<目的>

ヘテロサイクリックアミン(HCA)は、肉や魚の高温調理の

際に生成される変異原物質である。

乳酸菌がHCAに対して抗変異原性を有するという報告は

数多く、その機序として、乳酸菌菌体のHCAへの吸着性が

指摘されてきた。

我々は以前、乳酸菌菌体の塩懸濁液上清が

HCAに対する抗変異原性を有していることを見出した1)

そこで本研究では、乳酸菌菌体のHCAに対する抗変異原性の機序を明らかにするために、

乳酸菌菌体のHCAに対する吸着性と塩懸濁液上清中の抗変異原性との関係に着目して、一連の実験を行った。

 

<実験方法>

Lactobacillus alimentarius KN15株とLactobacillus plantarum KK2503株並びに乳酸菌JCM22菌種を用いた。

乳酸菌をNaCl溶液に懸濁して様々な条件下で培養を行い、遠心分離後に得られた上清を試料として、

Salmonella typhimurium TA98株を用いた復帰突然変異試験により、6種のHCAに対する抗変異原性を測定した。

菌体のHCAに対する吸着性は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。

 

<結果と考察>

HCAと菌体を100 mM NaCl溶液中に混じ、37℃18 rpm30分の条件下で培養を行った。

この時、各種乳酸菌懸濁液のHCAに対する総阻害率は懸濁液上清の阻害率と有意に相関した一方で、

菌体のHCAに対する吸着率と総阻害率との間には相関が見られなかった。

また、用いた6種のHCAには、菌体に対して比較的吸着性を示すものと全く吸着しないものとが存在した。

さらに、KN15株とKK2503株を100 mM NaCl溶液中に混じ、50℃120 rpmの条件下で繰り返し培養を行なった結果、

培養開始前に菌体が有していたHCAへの吸着性は培養開始30分後の測定に於いて有意に低下した。

一方、上清中の抗変異原性は培養に伴って有意に増加したが、その後徐々に低下し、8時間後には、吸着共々消失した。

KN15株とKK2503株並びにHCAを各々混じ、人工胃液(pH=2.0)で処理したところ、

菌体排除後の人工胃液中にHCAに対する高い抗変異原性が観察された一方で、菌体の吸着性は失われていた。

以上から、乳酸菌菌体のHCAに対する吸着性は抗変異原性の主体ではなく、

菌体から懸濁液中へ溶出される何らかの物質による効果が主要因であると考えられた。

また、当該物質は、胃液などの生理的条件下においても菌体から溶出される可能性が示されたと同時に、

吸着性と上清中の抗変異原性との間に見られる逆相関性から、両者間には何らかの関係があることが示唆された。

 

<関連論文>

1) M. Nakayama et al. Jpn J. Lactic Acid Bact. 19(3): 160-164 (2008)

<Title>

 

The relationship between the antimutagenic effects observed in the supernatants of saline-suspensions of Lactic Acid Bacteria on heterocyclic amines and the binding effects of the cells of LAB on the mutagens.

大豆麹乳酸菌発酵液の抗酸化能


抗酸化能を有する食物由来の物質としてお馴染みのものに、ビタミンCやビタミンEがあります。

ビタミンCは水溶性の抗酸化剤で、ビタミンEは油性の抗酸化剤です。

体内では、ビタミンCは血液などの水溶液中で働き、ビタミンEは脂肪組織や細胞膜などの脂質の多い場所で脂質の酸化防止に働いています。

実験の結果、大豆麹乳酸菌発酵液は、水溶液中でも油の中でも強い抗酸化能を発揮する事が分かりました(写真-1、2)

 

             写真-1: DPPHを用いた抗酸化試験                         写真-2: リノール酸自動酸化系での抗酸化試験

 

写真-1は、常態下で安定なラジカル分子であるDPPH1,1-dipheny-2-picrylhydrazyl)に対する

大豆麹乳酸菌発酵液(写真ではSKLと表示)の還元能を示したものです。

DPPHが酸化能を有している状態では紫色を示しますが、これが還元されて酸化能を失うと、黄色に変化します。

図で示したように、等濃度において、大豆麹乳酸菌発酵液は赤味噌(豆味噌)や米味噌に比べて、より強力な抗酸化能を示しました。

豆味噌は大豆を100%使い、米味噌は大豆をおよそ30%使う味噌です。

一方、ヨーグルトには全く抗酸化能がありませんでした。

従いまして、これらの発酵食品の抗酸化能は大豆に強く関連している事が分かります。

 

写真-2は、リノール酸自動酸化系の結果です。

リノール酸は分子内に二重結合を2個有している酸化しやすい脂肪酸です。

これに各種試料を加え、加熱攪拌して酸化させた後、生じた赤色の酸化物質を測定します。

赤い色が薄いほど、試料の抗酸化能が強いとみなされます。

写真で示したように、DPPHの試験と同じく、等量比較において、大豆麹乳酸菌発酵液(SKL表示)は、

赤味噌、米味噌、ヨーグルトに比べて最も強い抗酸化能を示しました。右端のVCとはビタミンCの事です。

DPPH試験などでは強力な抗酸化能を示すビタミンCも、油相においてはまったく効果を発揮しない事が分かります。

 

より詳細に行った実験が、図-3と4です。

図-3においては、キサンチン/キサンチンオキシダーゼ系で生じたスーパーオキサイド(O2-)に対する抗酸化能をMPEC法にて測定した結果を

DPPH法の結果と共に示してあります。

図-4においては、対照として、食品添加物などにしばしば使用される抗酸化剤であるBHT(butylated hydroxytoluene)を用いました。

 

図-3、4共に、写真-1、2を裏付ける結果となりました。

 

         図-3: MPEC法とDPPH法を用いた水相での抗酸化試験
         図-3: MPEC法とDPPH法を用いた水相での抗酸化試験
       図-4: リノール酸自動酸化法における各種発酵食品の抗酸化能
       図-4: リノール酸自動酸化法における各種発酵食品の抗酸化能

 

次に大豆麹乳酸菌発酵液のどの分画に抗酸化能があるのか調べたところ、

液体大豆麹をメタノールで抽出した分画中に強い抗酸化能がある事が分かりました(図-5)。

メタノールは水も油も溶かしますので、両者に対して抗酸化能を発揮するわけです。

 

         図-5: 各種溶媒による抽出物の抗酸化能比較(MPEC法)
         図-5: 各種溶媒による抽出物の抗酸化能比較(MPEC法)

 

液体大豆麹は大豆粉の水溶液に麹菌の胞子を接種し、振蕩培養装置で23週間ほど培養して作りますが、

培養0日から培養終了日までの液体大豆麹の抗酸化能を調べた所、培養に伴って抗酸化能が増強する事が分かりました。

-6は水相、図-7は油相の結果です。

 

            図-6: 液体大豆麹の培養日数と抗酸化能の変化(MPEC法)
            図-6: 液体大豆麹の培養日数と抗酸化能の変化(MPEC法)
     図-7: 液体大豆麹の培養日数と抗酸化能の変化(リノール酸自動酸化法)
     図-7: 液体大豆麹の培養日数と抗酸化能の変化(リノール酸自動酸化法)

 

さらに詳細に調べると、どうやら大豆のイソフラボンの一種が麹菌によって変化を受け、それに伴って抗酸化能が増強する事が分かってきました。

この抗酸化能の強いイソフラボン分画を液体クロマトグラフィーによって分取~精製し、同定したところ、

8-ヒドロキシダイゼイン(8-hydroxydaidzeinである事が分かりました(図-8)。

 

           図-8: 液体クロマトグラフィーでの8-ヒドロキシダイゼインのピーク
           図-8: 液体クロマトグラフィーでの8-ヒドロキシダイゼインのピーク

 

この物質は、豆腐や豆乳などの大豆食品、あるいは味噌や納豆などの大豆発酵食品にも殆ど検出されない種類のイソフラボンで、

数あるイソフラボン化合物の中でも極めて抗酸化能が強い物質です。

その抗酸化力はビタミンCやビタミンE、あるいはBHTとほぼ同等であり、

加えてビタミンCは水相で、ビタミンEは油相でのみ働くのに対し、

8-ヒドロキシダイゼインは水相油相の両者において等しく強い抗酸化力を発揮する事が分かりました(図-9と図-10)。

 

      図-9: ビタミンCと8-ヒドロキシダイゼインの抗酸化能の比較(水相での結果)
      図-9: ビタミンCと8-ヒドロキシダイゼインの抗酸化能の比較(水相での結果)
     図-10: BHTと8-ヒドロキシダイゼインの抗酸化能の比較(油相での結果)
     図-10: BHTと8-ヒドロキシダイゼインの抗酸化能の比較(油相での結果)

 

また、8-ヒドロキシダイゼインはチロシナーゼと呼ばれる酵素を阻害する作用がありますが、

チロシナーゼは皮膚のメラニン色素合成に関与する酵素です。

長年にわたる紫外線の作用により肌のシミが生じますが、チロシナーゼ阻害活性を有する物質には、肌のシミを防ぐ作用が期待されています。 

 

8-ヒドロキシダイゼインは液体大豆麹中で多く産生される物質であり、

数ある健康食品の中でも液体大豆麹を用いた機能性食品は、

喜源バイオジェニックス研究所の大豆麹乳酸菌発酵液に限られます(特許第4794486号)。

 

論文紹介

中山雅晴、前沢留美子、腰原菜水 「大豆麹乳酸菌発酵液の抗酸化能:in vitro 研究」 

New Food Industry 2011, Vol.53, 20-32 

中山雅晴、前沢留美子、腰原菜水 「大豆麹乳酸菌発酵液の抗酸化能-続報:in vitro 研究」 

New Food Industry 2012, Vol.54, 55-66

乳酸菌の抗変異原性


焼き肉などに含まれる強力な変異原物質であるヘテロサイクリックアミン(HCA)に対する乳酸菌の抗変異原性を調べました。

 

発ガン物質の中にはDNAに損傷を与えて細胞に変異を引き起こす性質を持つものがありますが、

このような物質を変異原物質と呼び、その性質を変異原性と呼びます。

変異原物質の働きを抑制する物質が抗変異原物質で、その性質を抗変異原性と呼びます。

 

乳酸菌の菌体にはHCAを吸着する能力があり、この吸着力こそが乳酸菌の抗変異原性そのものである、との説に基づき、  

120種類にのぼる乳酸菌の菌体をそれぞれ等濃度に食塩水に懸濁し、冷蔵庫で1年間保管したものを試料として、

それぞれの乳酸菌菌体のHCAに対する吸着力をエームズテストにより調べました。

HCAにはMeIQを用い、各懸濁液にMeIQを混ぜて反応させた後に懸濁液上清中のMeIQの変異原活性を調べ、

活性の減少の程度を指標として評価しました。

 

その結果、

下図で示した3種類の乳酸菌菌体懸濁食塩水に、MeIQに対する強い吸着活性が見られました(下図の赤い棒グラフ)。

ところが、全懸濁液を遠心して得られた上清液(上澄み液)からもほぼ同等の活性が見られました(下図の青い棒グラフ)。

上澄み液中には乳酸菌の菌体は全く存在していませんので、

ここで観察されたMeIQに対する抗変異原活性は、菌体による吸着能によるものではない事は明らかです。

これを裏付ける結果として、遠心によって得られた菌体分画には弱い活性しか観察されませんでした(下図の黄色い棒グラフ)。

 

この結果から、

乳酸菌菌体を懸濁した食塩水上清中に、HCAに対する強い抗変異原性を有する物質が存在する事が示唆されます。

試料は菌体懸濁液を1年間保管して得られたものである事から、

乳酸菌菌体から何らかの物質が食塩水中に移行した可能性が考えられます。

現在、喜源バイオジェニックス研究所では、その物質の特定ならびにメカニズムの解明に向け、体制を整えつつあるところです。

 

論文紹介 

Nakayama M, Maezawa R, Koshihara N, and Nakamura Y. Evidence suggesting that a soluble factor majorly contributes to the antimutagenic property of lactic acid bacteria against the heterocyclic amine,

2-amino-3,4-dimethyl-3H-imidazo[4,5-f]quinoline.

Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria 2008, Vol. 19, 160-164 

乳酸菌発酵液の大腸ガン抑制機能


喜源バイオジェニックス研究所は、大豆麹乳酸菌発酵液の他に、

大豆粉水溶液を直接乳酸菌と酵母で発酵させた乳酸菌発酵液の生産も行っています。

この乳酸菌発酵液の大腸ガン抑制作用について、マウスを用いて実験を行いました。

 

ジメチルヒドラジンと呼ばれる発ガン物質を注射して、マウスに大腸ガンを作らせました。

この時、マウスに乳酸菌発酵液を餌に混ぜて食べさせ、生じた大腸ガンの数を調べました。

その結果、乳酸菌発酵液を与えたマウス群の大腸ガンの発生率が低下しました。

また、大腸ガンの前ガン病変の数を数えて調べたところ、

餌に混ぜる乳酸菌発酵液の量に応じて前ガン病変数が有意に抑制されました(下図)。

その後の実験結果から、乳酸菌発酵液の大腸ガン抑制機能は乳酸菌菌体分画に存在する事が分かりました。

 

論文紹介 

Nakayama M, Kitajyo T, Kasuga H, Kanabayashi T, and Nakamura Y. Inhibitory Effects of the Extract of Soy Protein Fermented with Lactic Acid Bacteria and Yeasts on 1,2-Dimethylhydrazine-Induced Colon Cancer and Aberrant Crypt Foci of Mice. Bioscience and Microflora 2002, Vo. 21, 163-170