免疫賦活能


「免疫がついた」といういい方からも分かるように、

免疫という言葉は、本来は「ある種の感染症にかかった後は二度かかる事はない」という事を意味する言葉です。

しかしながら現在では意味が拡張し、

 

1. 細菌やウイルスなどから身を守る

2. ガン細胞などの体の中に生じる異質成分を排除する

3. 神経系や内分泌系と共に生体の恒常性を維持する

 

という三つの大きな働きをするシステム系として捉えられています。

 

免疫系は非常に複雑なシステムで、全体を概説するだけでも大変です。

これに加えて研究の進捗速度が極めて速いため、「昨日までは正しかったが今日は間違っている」たぐいの話で充ち満ちている学問領域です。

従いまして、あえて不正確さを承知の上で、なるべく単純化して説明していきたいと思います。

免疫のお話


免疫システムは、免疫を担当する専門の細胞群と、抗体やサイトカインなどの液性因子で構成されています。

始めに、各種の専門用語を大雑把に定義します。

 

免疫に関わる細胞群

好中球:病原菌の侵入に対して攻撃の先頭に立つ細胞

好酸球:寄生虫の制御~排除に関わる細胞

好塩基球:急性型のアレルギーに関与する細胞

マクロファージ:異物の貪食、抗原提示、

免疫反応の制御を行い、

免疫の中心的役割を果たす細胞

樹状細胞:強い抗原提示能を有する細胞

NK細胞:非自己細胞を攻撃する細胞

Bリンパ球(B細胞):抗体を分泌する細胞

Tリンパ球(T細胞):免疫反応の制御や、

ウイルスに感染した細胞やガン細胞の攻撃などを行う細胞。

キラーT細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞がある。

ヘルパーT細胞はさらに、ヘルパー1細胞(Th1)

ヘルパー2細胞(Th2)ヘルパー17細胞(Th17)に分けられる。

 

 

免疫に関わる液性因子

抗体:B細胞によって作られる物質で、異物を特異的に認識し、その排除に関わる。

補体:体内に進入してきた細菌に付着し、これを溶かす(溶菌)働きをする。

リゾチウム:血清中に存在する抗菌物質

サイトカイン:免疫細胞間、あるいは免疫細胞と組織細胞との間の情報伝達を行う物質。

インターロイキン(IL)と呼ばれる物質がこれに含まれる。

 

また、免疫系は切り口によっていくつかに分類する事が可能です。例えば、

 

1. 自然免疫と獲得免疫

2. 液性免疫と細胞性免疫

3. 全身免疫と腸管免疫

 

などです。以下、それぞれについて概説致します。 

自然免疫と獲得免疫


自然免疫

ヒトを含む多くの動物では、

ある特定の構造パターンを持つ物質に対して

自動的に排除機能が発動するようなメカニズムが備わっています。

これを自然免疫と呼び、獲得免疫と比較して、

より原始的なシステムであると考えられています。

 

例えば、ヒトの血清中には補体と呼ばれる物質が存在していますが、

補体は、

血中に進入してくる細菌を無差別に溶菌する働きをします。

補体によって溶菌されない場合は、

まずは真っ先に好中球が、

少し遅れてマクロファージが駆けつけて退治してくれます。

抗菌ペプチドを放出するパネート細胞
抗菌ペプチドを放出するパネート細胞

これらの免疫細胞にはトールライクレセプター(TLR)に代表される一群の受容体が発現しています。

TLRにはいくつかの種類がありますが、

LPSのようなグラム陰性菌由来内毒素、ペプチドグリカンのようなグラム陽性菌細胞壁、

細菌やウイルス由来のDNARNAフラジェリンと呼ばれる細菌の鞭毛など、

一連の外来物のパターンを「生得的に」認識する働きをします。

TLRによって異物を認識したマクロファージは活性化し、これの貪食~殺菌を行います。

 

また、腸管粘膜の腸陰窩(ちょういんか)と呼ばれる場所には

パネート細胞と呼ばれる細胞がディフェンシンなどの抗菌ペプチドを腸管内に放出し、

病原菌の侵入を防いでいます。

 

これらが自然免疫の代表です。  

 

抗体を分泌するB細胞
抗体を分泌するB細胞

獲得免疫

自然免疫では排除されない異物に対して発達してきたものが、獲得免疫と呼ばれるシステムです。

獲得免疫とは、進入してきた細菌やウイルスなどの異物の特徴を認識して記憶し、次の進入時には、

その異物に対してのみ迅速かつ強力な排除機能を発動するシステムの事です。

獲得免疫の発動時には、マクロファージや樹状細胞などの「抗原提示細胞」、抗体を産生するB細胞、

そしてシステムを制御するT細胞の各々が密接に協力して働きます。

 

獲得免疫の典型例は、ワクチン接種時に見られます。

ワクチンとは、病原性のウイルスや細菌を免疫原性を維持したまま弱毒化したものです。

ワクチンを接種すると、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞が集まってきて、これを貪食します。

同時に、ワクチン抗原に対応する受容体を持ったB細胞も反応し、活性化します。

抗原提示細胞は、貪食したワクチンを消化し、ペプチドにまで分解して、

その断片を細胞表面に提示します。

これを、ワクチン抗原に対応する受容体を持ったT細胞(ヘルパーT細胞)が認識する事によって、獲得免疫が得られます。

 

例えば、天然痘ワクチンでは弱毒化された天然痘ウイルスをワクチンとして接種します。

接種部位に水疱が生じるなどの症状が一時的に出ますが、その程度は軽くて済みます。

一方で免疫系はワクチン接種によって天然痘ウイルスの特徴をはっきりと認識し、記憶しますので、

次に本当の天然痘ウイルスが侵入した場合には直ちに獲得免疫系が発動し、

ヘルパーT細胞とB細胞が協力して天然痘ウイルスのみに特化した抗体が大量に生産され、速やかに天然痘ウイルスは排除されてしまいます。

 

このような獲得免疫は、自然免疫に比べ、より進化したタイプの免疫システムであると考えられています

かつて天然痘は致死率の高い病気として世界中で猛威をふるいましたが、ワクチン接種による予防の結果、現代ではほぼ撲滅に至りました。

 

リンパ球のT細胞やB細胞は獲得免疫を代表する免疫細胞ですが、

最近になって自然リンパ球と呼ばれる一群のリンパ球の存在が明らかとなってきました。

自然リンパ球は主に腸管粘膜などの局所に多く存在し、

一連のサイトカインを分泌する事によって寄生虫の排除や腸管粘膜の健常性の維持などの働きをしている細胞群です。

サイトカインを分泌する際に抗原提示細胞による活性化を必要としないため、自然リンパ球と呼ばれます。

分泌するサイトカインの種類によって3群に分類されますが、自然免疫と獲得免疫の橋渡しを行う細胞群として、

その重要性が認識されつつあります。

液性免疫と細胞性免疫


液性免疫

広い意味で液性免疫を考える場合は血清中の溶菌物質であるリゾチウムや補体などを含みますが、狭い意味では抗体による免疫を指します。

 

抗体とは、下図のような基本的にY字形タンパクで構成された物質で、

Y字の先端部分が物質の構造を特異的に認識し、その構造部分に付着する機能を持ちます。

抗体は免疫細胞の中でもB細胞と呼ばれる一群の細胞によって作られ、血中や粘液中に放出されますが、

構造の違いによってIgAIgMIgDIgEIgGがあり、さらにそれぞれがいくつかの種類に分けられます

 

 

IgAは基本的に粘液中に分泌される抗体で、IgMは細菌やウイルスなどが体の中に進入してきたときに最初に作られる抗体です。

IgGは抗原に対して最も特異性が高い性質を持つ抗体で、液性免疫の主流を担います。

IgDの役割は長年よく分からなかったのですが、最近では、上気道で好塩基球と連携し、

呼吸器の感染防御に働いていると考えられるようになりました。

IgEはアレルギーに関与する抗体で、Y字型の根っこの部分で鼻粘膜などの肥満細胞表面に付着します。

花粉症などでは、Y字型の二股の部分で花粉抗原を認識し、肥満細胞からヒスタミンなどの炎症物質の放出を促して、

鼻粘膜の肥厚や鼻汁の過剰分泌など、花粉症に特有の症状を引き起こすと考えられています。

 

これらの抗体は細菌やウイルスなどの外部から進入してきた異物を認識し、これに付着しますが、

一つの抗体は異物が有する構造のある特定の部位のみを認識して付着し、他の抗体は別の特定部位のみを認識して付着します。

このような抗体特有の性質を抗原特異性と呼びます。

 

細菌を貪食するマクロファージ
細菌を貪食するマクロファージ

IgMIgA抗体の構造を見ると分かりやすいのですが、

一つの抗体が、同じ構造を有するいくつかの抗原に付着する事もできます。

その結果、抗体と抗原が網目状の構造物を形成する事となり、「凝集反応」が生じます。

粘液中に分泌されたIgAに絡め取られた病原菌は凝集反応の結果、粘液層を通過できなくなり、

粘液と共に排出されてしまいます

また、IgMIgGで絡め取られた病原菌と抗体の複合産物は、

その後に肝臓や脾臓などでクッパー細胞やマクロファージによって貪食され、

血中から排除されてしまいます。

マクロファージに代表される貪食細胞は、

抗体が付着していない裸の細菌よりも付着している細菌の方をより選択的に貪食しますが、

このような現象を抗体の「オプソニン効果」と呼びます。

ウイルスや毒素など、比較的小さな分子にIgG抗体が付着して機能を失活させる効果は、

「中和反応」と呼ばれます。

また、補体には単独でも細菌を溶菌する働きがありますが、

細菌に抗体が付着すると補体の溶菌作用がさらに強まります。

 

このような抗体の産生は、

Tヘルパー2細胞(Th2)と呼ばれる免疫細胞が産生する特徴的なインターロイキンによって、基本的に制御されています。

 

移植細胞やガン細胞を攻撃するNK細胞
移植細胞やガン細胞を攻撃するNK細胞

細胞性免疫

細胞性免疫は、

広い意味では好中球やマクロファージなどの細胞による

自然免疫の仕事も含まれますが、

狭い意味ではキラーT細胞(細胞傷害性T細胞)やNK細胞が効果細胞となり、

抗体の関与なしで行われる免疫を指す言葉です。

 

T細胞は元々は胸腺で成熟するリンパ球群に付けられた名前ですが、

現在では、必ずしも胸腺を経由しなくても

T細胞に特徴的なマーカーを細胞表面に保持したリンパ球であれば

T細胞に分類されます。

キラーT細胞やTh2細胞、Tヘルパー1細胞(Th1)、

Tヘルパー17細胞(Th17)抑制性T細胞(regulatory T cellTreg)など、

色々な種類と役割を持った細胞がこれに含まれます。

 

液性免疫が抗体や補体を主役とした異物排除の仕組みであるのに対し、

細胞性免疫は、異物排除に細胞が直接的に関与します。

例えば、肝炎ウイルスに感染した肝臓組織の細胞は細胞表面に肝炎ウイルスの断片を提示しますが、

キラーT細胞はこの断片を認識し、その細胞を攻撃して、細胞もろともにウイルスの拡散を防ぎます。

臓器移植などの場合には、移植された臓器細胞表面の「自己」標識の有無をNK細胞が認識し、

「自己」ではないと判断すると、移植細胞を攻撃します。

従いまして、臓器移植の場合には、なるべく自分に近い身内の臓器が好まれます。

それでも攻撃される場合には、免疫抑制剤を投与して、免疫細胞の攻撃を抑える試みが行われます

 

細胞性免疫は、Th1細胞が産生する特徴的なインターロイキンによって基本的に制御されています。

全身免疫と腸管免疫


全身免疫に対する言葉としては「局所免疫」が本来ですが、ここでは「腸管免疫」という言葉を用います。

鼻腔~口腔からの連続体として、粘膜免疫という言葉でいい換えても構わないと思います。

全身免疫とは体内で行われる異物排除システムの事で、以前はこれ以外に組織的な免疫系が存在するとは思われていませんでした。

しかしながら、1980年頃から腸管粘膜や体表面の免疫に注目が集まるようになり、研究が進むにつれ、

特に腸管はまさに一個の巨大な免疫システムであるといっても過言ではない、重要な臓器である事が分かってきました。

よく考えれば、外界からの異物を排除するシステムが免疫の最重要の役割ですから、外界と体の内部の接点である腸管に、

排除すべき病原的異物と吸収すべき栄養素とを識別するシステムが備わっているのは合理的な話です。

 

全身免疫

全身免疫システムは、体内に進入した異物を排除するシステムです。

体表面、あるいは粘膜バリヤーをかいくぐって血中に進入してきた異物、例えば細菌などは、

始めに血清中のリゾチウムなどの抗菌物質にさらされます。

これで溶菌されない菌は、次に補体の付着によって溶菌されます。

これも逃れた菌は、肝臓や脾臓、肺などに存在する細網内皮系と呼ばれる異物排除組織において、

クッパー細胞などのマクロファージ系細胞によって貪食され、消化されてしまいます。

それでも排除できない場合には獲得免疫系が発動し、当該細菌に対する特異抗体が産生され、

これによって補体の古典的経路やオプソニン化によるマクロファージ活性化などにより排除されます。

それでもなお排除できないものに対しては、

それ以上の増殖や拡散を防ぐためにマクロファージなどが取り囲んで嚢胞(のうほう)を作って閉じ込めようとします。

結核菌などはこのようして肺の内部に封じ込められますが、それでも結核菌は死んではいません。

 

小腸の蠕動運動
小腸の蠕動運動

腸管免疫 

口から肛門に至るまでの管腔は、

食物の取り入れ、咀嚼、振蕩、消化、吸収、排泄の一連の行為を行う重要な部位です。

一見すると消化管は体の中にあるように思えますが、

実は消化管管腔は「体の外」に相当します。

口を介して入ってくる様々な物質の大部分は「食物」ですが、

中には病原菌や毒物などが入ってくる事もあります。

消化管は食物中の栄養素を吸収するという大事な役割を果たすと同時に、

これら害となる物質を排除する役目も果たさなくてはなりません。

 

このような二律背反の働きをする組織が腸管免疫系です。

 

腸管免疫系の研究の歴史は新しく、今でも多くの謎に包まれていますが、 

ヒトの免疫細胞の5070%位が腸管粘膜に存在しているという事実からも、その重要性が推測されます。 

例えば、腸管のリンパ節に相当するパイエル板には夥しい数のB細胞T細胞が、

粘膜固有層にはプラズマ細胞(形質細胞)と呼ばれるIgA抗体を産生する細胞が、

吸収上皮細胞の間隙にはIELと呼ばれる特殊なリンパ球が、存在します。

その他、パイエル板の腸管管腔側にはM細胞が、

M細胞の直下にはマクロファージ樹状細胞が、

パイエル板中心部には濾胞性(ろほうせい)ヘルパーT細胞が、

腸陰窩にはパネート細胞が存在します。

さらに最近では、粘膜固有層部位には多くの自然リンパ球が存在し、腸管粘膜の健常性の維持に関与している事も分かってきました。 

 

腸管粘膜層の免疫細胞群

 

 

これらの細胞の働きのすべてを説明する事は不可能ですので、ここではIgA抗体が作られる過程に着目してお話致します。

 

ヒトの外表面を覆う皮膚組織は、真皮細胞の上を、死んだ細胞が何層にも積み重ねられてできた角質層が覆ってできているので、

乾燥や摩擦、打撃に対して相当程度に耐久性があります。

しかしながら、消化管の粘膜は栄養素を吸収しなくてはなりませんので、皮膚組織のような丈夫な構造を取る事ができず、

ただ一層の吸収上皮細胞によって裏打ちされているだけです。

 

吸収と排除という問題を解決するために取られた方法の一つが、吸収上皮細胞表面を粘液で覆う事です。

粘液は、吸収上皮細胞間に存在する杯(さかずき)細胞によって産生~分泌されます。

体に必要な栄養素はこの粘液を通過して吸収されますが、病原菌などはここでブロックされてしまいます。

その理由は、粘液中にはIgA抗体が存在し、これで異物を捕捉して粘液と共に体外へ排除するという腸管免疫特有の仕組みがあるからです。

 

小腸には、全身免疫におけるリンパ節に相当する役割を果たすパイエル板と呼ばれる組織があります。

パイエル板の腸管管腔側のドーム表面にはM細胞と呼ばれる細胞が存在し、

細菌やウイルスなどの異物を腸管管腔側から積極的に取り込みます。

 

M細胞の直下にはマクロファージや樹状細胞などが待機し、取り込まれた異物を貪食~消化して、パイエル板のTh2細胞に抗原として提示します。

 

M細胞~抗原提示細胞~リンパ球の流れ
M細胞~抗原提示細胞~リンパ球の流れ

抗原を認識したTh2細胞は増殖し、

リンパ流や血流に乗って、腸管粘膜を含む体中の粘膜組織に移動します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

粘液中でIgA抗体に捕捉された病原菌
粘液中でIgA抗体に捕捉された病原菌

同時に、抗原を認識したB細胞は、

Th2細胞が分泌するサイトカインによって形質細胞と呼ばれる細胞に変身し、

抗原特異的なIgA抗体を分泌するようになります。

形質細胞によって分泌されたIgA抗体は、上皮細胞を通して粘液中に放出され、

粘液中で抗原を認識し、これを捕捉します。

その結果、病原菌は粘液中で身動きが取れなくなり、

粘膜内へ進入する事が不可能となります

 

腸管免疫システムには、IgA抗体以外にも、

パネート細胞による抗菌ペプチドの分泌や腸内細菌叢との相互作用、

免疫寛容システムなど、数多くの特筆すべきシステムが備わっています。

免疫賦活機能を持つ食物成分


免疫賦活、あるいは免疫活性化の機能は、食品の中でも特にヨーグルトや味噌、納豆などの発酵系食品に強く見られます。

これらの発酵食品の成分の中で、

発酵の主体である乳酸菌や納豆菌、それに酵母などの食用微生物に強い免疫賦活能がある事が分かって来ました。

乳酸菌や納豆菌、酵母の菌体はペプチドグリカンと呼ばれる頑丈な多糖性物質で作られていますが、

これが腸管免疫を刺激し、さらに全身の免疫活性化に貢献します。

シイタケやアガリクス、サルノコシカケなどのキノコ類にも免疫賦活能がある事が分かっています。

その実体は、これらのキノコを熱抽出すると得られるβグルカンと呼ばれる多糖類です。

さらに、海草から得られるフコイダンと呼ばれる粘液性の物質にも免疫賦活作用がある事が分かってきました。

フコイダンもまた、多糖類の一種です。

キノコのβグルカンや、ある種の細菌に特殊処理を施して得られた菌体物質などは、

一時期、医薬品の抗ガン剤として病院などで非常に多く用いられました。

その狙いは、これらの物質によって非特異的に免疫活性を高め、ガン細胞を攻撃する免疫細胞の攻撃力を高めようというものです。

免疫系は非常に複雑なシステムですので、この戦略は必ずしも目覚ましい効果を上げるには至らなかったようですが、

キノコにせよ発酵食品にせよ、これらの食品自体に免疫を活性化する物質が含まれている事は事実です。

従いまして、医薬品的に注射したりするのでは無く、食品やサプリメントとして、ごく少量ずつでも日々の食生活に取り入れる事によって、

まずは腸管免疫を刺激し、続いて全身免疫を活性化して、風邪などに対して抵抗力のある体を作る事は十分に可能であると思います。

乳酸菌と免疫賦活作用


乳酸菌が有する免疫賦活能の第一の主体は、

菌体を構成するペプチドグリカンにあると考えられます。

ペプチドグリカンは丈夫な物質で、熱にも強く、

乳酸菌を加熱して死菌体にしても

免疫活性効果は全く変わりません。

 

生きた乳酸菌を摂取しても

99%以上の菌は生きて腸に達する事は無く、

仮に到達しても定着できずに程なく排泄されてしまいます。

従いまして、乳酸菌の免疫賦活効果を期待する場合、

生きた乳酸菌にこだわる必要はありません。

 

 

また、腸管粘膜にはトールライクレセプター(TLR)に代表される一群の受容体がありますが、

TLRには細菌由来のDNAを認識して免疫を発動させるものがあります。

従いまして、乳酸菌のDNAも免疫賦活作用を有する物質です。

細菌のDNAは細菌が溶菌する過程で放出されますので、

この場合も乳酸菌は生きている必要がありません。

 

さらに、乳酸菌が胃や腸の消化液にさらされると、

菌体から糖ペプチド(糖鎖)などの物質が消化液中に放出されます。

これらの物質が生体に及ぼす影響に関しては殆ど研究が進んでいませんが、

TLRを介しての免疫活性化の他にも色々な影響の可能性があります。

この場合も乳酸菌は生きている必要はありません

 

大豆麹乳酸菌発酵液で使われている6種類の乳酸菌の中でも、

ラクトバシラス・クルバータス KN40 は免疫賦活能が高い菌です。

ラクトバシラス・クルバータス KN40の加熱死菌体の投与によって、

マウスのマクロファージやNK細胞の活性が顕著に上昇する事が分かりました。

これらの結果は、乳酸菌の場合、死菌体でも免疫活性を高める事の明らかな証拠です。

 

ビフィズス菌の場合は、乳酸菌と趣が大いに異なります。

 

赤ん坊が生まれた後に最初に腸管で検出される菌は大腸菌の仲間ですが、

ほどなくしてビフィズス菌が優勢になります。

母乳中には母親由来のIgA抗体が豊富に存在し、これらが悪玉菌の侵入~定着を阻止すると同時に、

母乳中のガラクトオリゴ糖などを利用してビフィズス菌が増殖し、

活発に代謝活動を行って乳酸や酢酸などを分泌する結果、腸管粘液層が酸性に維持されます。

そうなるとさらに悪玉菌は居心地が悪くなりますので、

新生児の腸管環境は善玉菌優性に維持される事となります。

未だ免疫システムが成熟していない脆弱な赤ん坊は、

このようにして母乳とビフィズス菌の共同作業で外敵から身を守っていると考えられます。

 

興味深い点は、母乳中のIgA抗体にはビフィズス菌は無反応という点です。

このような、腸管免疫系による異物に対する反応性の無さを免疫寛容と呼びますが、

様々な証拠から、ビフィズス菌、特に自分の腸管内に住み着いているビフィズス菌に対しては、

腸管免疫系は免疫寛容の状態になっていると考えられています。

さらに最近では、

腸管免疫が抗ビフィズス菌IgA抗体を粘液中に分泌する事によってビフィズス菌を粘液中で絡め取り、

その結果、ビフィズス菌を粘液中にむしろ積極的に保持している可能性を示唆する報告もあります。

 

生きたビフィズス菌が腸管内で代謝活動を行う結果、

体に良い様々な影響を及ぼしている事が分かっています。

ビフィズス菌が産生する物質の中には、免疫活性の機能を持つものも報告されています。

 

従いまして、ビフィズス菌の場合は乳酸菌と異なり、死菌体を摂取しても余り効果は無いようです。

一方で、生きたビフィズス菌を摂取しても腸管内に長く定着する事ができませんので、

ビフィズス菌に仕事をしてもらうには、

食物繊維やオリゴ糖が豊富な食物を食べるなどして

自分のビフィズス菌を増やす方法が確実かと思われます。

いわゆるプレバイオティック効果です。

免疫機能に関する参考文献

 

 ●MHCの免疫学 小笠原一誠等 1993 中外医学社

 ●NK細胞 押味和夫 1993 金原出版

 ●免疫薬理-粘膜免疫 1993 Vol.11-3 ライフサイエンス出版

 ●生体防御の最前線 石川博通編 1994 菜根出版

 ●免疫学イラストレイテッド 第7版 David Male編 2009 南江堂

 ●粘膜免疫 清野宏編 2001 中山書店

 ●Advances in Host Defence Mechanisms. JI Gallin et al. Vol.9, 1994, RAVEN PRESS

 ●医学の歩み-Oral toleranceとは? 1996 Vol.177 医歯薬出版

 ●医学の歩み-動物界における免疫系の進化 名取俊二編 2002 医歯薬出版

 ●医学の歩み-Th1/Th2細胞分化研究の新展開と治療への応用 2003 Vol.207 医歯薬出版

 ●医学の歩み-Th17細胞 2008 Vol.226 医歯薬出版

 ●医学の歩み-自然リンパ球 2014 Vol.251 医歯薬出版

 ●医学の歩み-粘膜免疫Update  2015 Vol.253 医歯薬出版

 ●実験医学-解明が進むウイルス・細菌感染と免疫応答 2005 羊土社

 ●実験医学-感染・共生・生体防御システム 2012 羊土社

 ●実験医学-炎症 松島綱治編 2014 羊土社

 ●実験医学-生体バリアの破綻と疾患 2015 羊土社

 ●健康食品のすべて 田中平三等監訳 2006 同文書院

 ●健康食品・サプリメントのすべて 日本医師会 2011 同文書院

 ●健康食品全書 長坂達夫編 2005 ブレーン出版

 ●新しい免疫入門 審良静男、黒崎知博著 2014 講談社